制作を終えて
いきなりではありますが、僕はこれまでアナログゲームにおける「アクション」というジャンルについて否定的でした。理由は簡単で、アクションするならコンピューターゲームの方が操作も簡単で、表現のバリエーションも豊富だと思ったからです。多人数で遊ぶメリットにしても、マリカーやスマブラでも別に良いわけで、詰まる所、得手不得手というか棲み分けの問題だと考えていました。
が、後学のために何個か市販のアクションボードゲームを遊ばせてもらったのですが、これがなかなかどうして面白い(ものもある)。瞬発力や柔軟性を競うアクションゲームはやっぱり苦手なんですが、器用さを競うものであれば、不器用さ故に生じる不自由もまた楽しいという知見を得ました。
ただ、不満もあります。ゲーム性の殆どが器用さに依っている場合、ゲームの上達は修行と同義であり、そこに楽しさを感じるにはちょっと年を取り過ぎた感がありました。僕のような、この先の成長が殆ど見込めない人間には、「同じことを繰り返しつつ、違う結果を期待する」という狂気が欲しくなるのです。
また、テーマ的にもアブストラクトなものが多く、ゲームに今一つのれなかった場合どこにも救いがないので、ありきたりなファンタジー世界でもいいから何か1つフックがあったら良いなー、と感じていました。
そういう、おっさん(僕1人)の熱い要望(僕1人)を経て始まったのがこの企画となります。
まず、ベースに考えたのはゴルフです。ボールを弾いて、カップに寄せる。少ない手数で上手く寄せたら高得点という、この実に分かり易い理屈が既におっさん向きです。やっぱり、おっさんのスポーツとしてゴルフは外せません。
で、グリーンがモンスター、カップがそのモンスターの弱点と見立てます。クラブを武器に、ゴルフボールをサイコロに置き換えたら、あら、これはいい感じに成立するじゃないですか。とりあえずグリーンオンしたら出目の数だけダメージを与えて、カップインしなくても一定ダメージが蓄積したらモンスターを倒せる。としたら、もうこれでゲームの7割ができたようなもんです。まぁ、単純にゴルフの仕組みをそのまま置き換えてるだけですしね。
と言う訳で、最初は対戦形式、ランダムで配った武器カードに応じて使用サイコロが決まっていたり、特殊な効果があったりする感じで制作を進めていました。
しかし、ここでまた新たな問題が発生しました。
制作の過程で何回もテストプレイした結果、1回2回ならともかく、10回もやったら器用さに劣るプレイヤーは不自由さを全く楽しめないことが分かってきたのです。まぁ、試行回数の問題もあり、それはどんなゲームでも同じではあるんですが、一度作り始めたからにはその問題にも真っ向から立ち向かうべく「外的要因」と「内的要因」の2つについて対策を講じました。
まず、対戦ゲームから協力ゲームへ方針変更しました。対戦だと腕の劣るプレイヤーはただ虐げられることが多いですが、協力ゲームであれば(内心どう思っているかはともかく)心理的ストッパーがかかり、殺伐とした雰囲気になり難くなります。これが外的要因の解決です。
次に、協力ゲームにした場合、腕の劣るプレイヤーは活躍できないことに負い目を感じてしまいがちですが、これをケアする必要があると判断しました。そこで導入したのがスキルです。アクションとは別軸の、ストラテジー要素を設けることにより、純粋なアクションゲームではなくなりますが、「適切なスキル使用によりパーティープレイに貢献した」という自信を与えることができると考えました。これが内的要因の解決です。
そして、スキルと一緒にキャラクターを作り、おっさん的には重要なポイントであるロール要素の組み込みもスムーズに行われ、大体今の形になりました。
さて、ここまで来て完成かと言えば、そんなことありません。
外部で何回かテストした結果、やはり人によって難易度に差があり、簡単だと感じる人もいれば難しく感じる人もいて、どこに合わせれば良いのか分からなくなりました。
こういう場合、苦手な人に合わせて難易度を下げるのがセオリーなんですが、うちのゲームは東急ハンズやトイザらスに置かれるようなゲームじゃないしなー。と考えると、単に難易度を下げることが、うちの客層にマッチするんだろうか。また、難易度を下げるには的を大きくするのが一番なんだけど、当然コンポーネントを大きくするとコストが増大するしで、何が一番いいのか凄く悩みました。
そこで基本に立ち返って参考にしたのが『包丁人味平』のカレー戦争です。おっさんなので、古い漫画の引き出しはたくさんあるのです。で、ブラックカレーばかり取沙汰されるカレー戦争ですが、一応その前哨戦として「客の好みに合わせた辛さ」を論議していて、そこで鼻田香作が「辛さ表を提示して客に決めさせる」という、40年経った現代でも当たり前に使われる回答を出していました。辛さを難易度に置き換えれば、つまりそれが現代でも通じる正解という訳です。
遊ぶ側が難易度を選択する方法は色々ありますが、一番簡単なのは同じ物の大中小を用意することです。勿論、そんなことは(コスト的に)できません。なので、大中小とは結局面積の差でしかないと思いつき、カードを使って面積を増やすことを考えました。これが、多分このゲームにおける唯一の発明です。
で、カードで面積を増やすことはできても、減らすことはできない。なら、増やした面積を悪いことが起きるゾーンにしてしまえば、疑似的に難易度を上げられると思い、最終的に現在の形へと落ち着いた訳です。
このゲームは、これまで僕が作らなかった新ジャンルの習作ということもあり、目新しさは一切なく、システム的な冒険もありません。言ってしまえば、交互にショットする協力ゴルフです。ですが、おっさん以外の人もストレスなく楽しめるようデザインしたつもりなので、わいわいと楽しんでいただけたら幸いです。