制作を終えて
このゲームは、Alicematicシリーズの4作目として制作されました。
Alicematicシリーズの基本コンセプトは、各シリーズ毎に追加キャラを増やす一種のスターシステムであり、全シリーズのアリスが一堂に会するお祭りゲームです。これを分かり易く翻訳すると、「イラスト代を抑えつつ何か新しいゲームを作る」となります。いやー、分かり易さというのは本当に大事ですね!
ただ、その浮いた分のコストを何に使うかというのが問題で、本作においては途中から「大箱制作における試金石」という要素が加わり、個人ではたして商業規模の大箱ゲームが作れるのか? という実験作的意味合いとなりました。この少し前に出した『ウニコルヌスの騎士たち』も大箱ゲームではあるんですが、カナイセイジ氏との合作であり、かつ製造部分はAEG(Alderac Entertainment Group)の協力もあり、個人として作業を完結させたのは本作が初めてとなります。
この経験が、後の大箱制作の下地として生かされていることは間違いありません。
本作のベースになっているのは『Lord of Knights』、より正確な表現をするなら『戦姫インペリアル from 英雄*戦姫』です。いわゆるトラビアン系ゲームですが、その大きな特徴であるワールドリセットはオミットされています。まぁ、そんなに長いゲームじゃないから何回もやってね、ということで……
基本的な構造は内政+外征で、外征は攻めたいマスを選ぶとその距離に応じた戦力と時間がかかるという感じで、これをボードゲーム的に「時間」を「食料」に置き換えました。時間のままにして「遠くのマスを攻撃したら、結果が出るのに数ラウンドかかる」でも良かったんですが、即結果が返ってくる方が短時間のゲームに向いていると思い変更しています。
内政部分については、拙作『魔女×魔女』で使ったMTGの変則マナ出しシステムをそのまま流用し、生産施設の建替えも視野に含めた構成を考えていました。が、実際にやってみたら切り替えが簡単過ぎて上手く機能しなかったので、かなり早い段階で現在のような固定制に切り替わったと思います。
また、それに合わせて、最初は将軍ユニット的な位置づけで使っていたキャラクター(アリス)を、内政兼任という立ち位置に変更しました。この狙いは2つで、たくさんのアリスをたくさん手元に配置できること。そして、単純にパーソナルスペースの縮小です。これは実際、上手くまとまったと思います。
後はとにかく、プレイ感をいかに軽くできるかを重視して細かい部分を整備しました。
手番で何もできない、という嵌り状態を解消する為に「戦争中」のルールを作ったり、手札事故による嵌りを解消する為に「裏向きセット」のルールを作ったりとかです。基本的にやったことはこれだけであり、元にしたゲーム(『Lord of Knights』)がいかに優れているかの証左とも言えるでしょう。
デベロップ問題
テストプレイを繰り返して、ルールに妥当性を持たせていく過程を本項目(というか、僕)では「デベロップ」と仮定します。で、その際に絶対に発生するある問題についてです。
さて、テストプレイを繰り返すのはいいですが、極少数の限られたメンバーで行っていると、そのメンバー全員が初心者ではなくなってしまいます。なので、テストプレイヤーたちはゲームに物足りなさを感じて、特に悪気なく要素を付け加え、特にそれを悪気なく「これでまたゲームが面白くなった」と感じてしまう訳ですが、それは勿論錯覚です。正しくは「これでまたゲームが自分好みになった」です(同人なんだから、これは1つの答えではありますが)。
テストプレイヤーはほぼ0の状態から1つずつ積み上げて、物凄く丁寧にレベルアップしながら戦いに挑んでいるから丁度良いのですが、はじめて遊ぶ人にとってはいきなり拡張入りで全部! みたいな状況になる訳です。
本作で言えば「怪物の森」に関するルールがそれに当たり、はじめてプレイする人には全く必要ないルールとなります。なので、ゲムマなどで試遊をする際は、当サークル側でもこのルールを全て省いてインストする有様で、明らかに搭載方法を間違えました。やるなら選択ルールにするか、あるいは専用チットを使った別コンポーネントで、拡張として用意すべき案件でした。
それに合わせて、マニュアルも完全別ページにしてしまうとか、ページデザインを変えるとか、何かしら工夫があるともう少し遊び易かったのではないかと後悔しています。
文字に起こしてしまえばとても簡単なことなんですが、いざ当事者となるとこれに気づくことが難しい。
これがさらに進んで末期的な状況になると、ゲームが面白いのかどうかすら自分で分からなくなったりします。体験とは最も代表的な不可逆性変化であることを実感してしまいますね。
で、問題となるのは解決方法ですが、マニュアルの書き方などでもよく言われるように「はじめてやる人にルールブックを読んでもらって1から遊んでもらう」というのがありますが、これは解決方法でもなんでもありません。それができる人、環境にいれば、そもそもこんな問題はほぼ起こらないからです。時間とか人脈とか資金とか、理由はなんでもいいですが「できない」からこういう事態に陥る訳で、心構え的なものは救いになりません。具体的な方法論によって打破していく必要があります。
経験により僕が効果的だと感じるのは以下の2つです。
・同じテーマでルールを作り直してみる
・別のゲームを作る
簡単に言えば冷却期間を置くことです。僕の感覚だと、2ヵ月ぐらいも放置すれば脳が綺麗にリセットされる気がします。
「はじめてやる人」を用意するのが難しいのなら、自分がそうなってしまえばいいということです。そう、俺がガンダムだ! さらに付け加えるならば、リセット前提でスケジュールに余裕を持たせると完璧かと思います。