がやがやがや。
なんだ、今日はずいぶんと混んでいる。
ルネッサやジェイドも、てんやわんやの大騒ぎだ。
……空いてる席はっと……
一応、あるにはあったが……
ウォーカーの席。周りがぽっかりと空いている。
仕方がないので、君は向かいの席についた。
彼も、一応こちらに気付いた様子で、軽く会釈をした。
……沈黙の数分……周りのバカ騒ぎが嘘のように、このテーブルだけ静まり返っている。
まるで、お見合いのようだ。
とか訳の判らない事を考えている。
周りを見回すと、どうやらみんな、知らないフリをしながら、こちらの様子をのぞき見ているようだ。
……くそ、貧乏くじだ。
ウォーカー「そこのお方」
そこっていうとどこ……かというと、目の前の君に話しかけているらしい。
君は慌てて頷く。
ウォーカー「よろしければ、私の話に少しつき合って下さらないか?」
周りの様子からして、イヤも応も無いらしい。
君は腰を据えて、彼につき合うことにした。
とりあえずは、追加のビターを注文して。
私は、つい最近、仲間を亡くしました。
その男は、どう言う基準から見ても、善人とは言い難い人間でした。
酒癖も手癖も女癖も悪く、ギャンブル好きのぐうたら。
私がいくら神の教えを説いても、馬耳東風でした。
正直な話、何度、彼がいなくなれば世の中がもう少しましになるのに、などと考えてしまったことか……
その日、私たちは依頼を無事にこなし、人々の感謝と、幾ばくかの報酬を得てようようと街道を進んでいました。
その街道筋は、お世辞にも治安がいいとは言えなかったのは確かです。
しかし、いくら警備隊に守られていても、街道に賊が現れるのは、それほど珍しいことではないのは、ご存じの通りです。
いつものように賊が出て、私たちはいつものように撃退しました。
いつもと違ったのは、彼が不運にも矢を受けてしまったこと。
そして、その矢に毒が塗ってあったことでした……
気付いたときには、手遅れでした。
彼は、一晩苦しんで、そして……
彼は、私たちをかばって矢を受けてしまったのでしょうか?
私は、ずっとそれが心に引っかかっていました。
彼のそれまでの行動と性格から言えば、あり得ないことです。(失礼。死人に幸あれ)
彼自身も、ずっとうわごとで、「失敗した、失敗した」と繰り返していましたし……
……ウォーカーは、ジョッキを軽くあおった。
失礼。一人で長々と話してしまいました。
……今、ふと気付いたことがあります。
もしかしたら、私は今まで、彼の死を悲しんでいたのだと思いこんでいました。
だが、もしかしたらそれは間違いで、彼の死にたいする罪悪感に押しつぶされていただけ、なのではないかと……
少し、素直な気持ちになれそうです……ありがとう。
そして、ウォーカーは、今度はジョッキを一気に飲み干した。
満足そうにため息をつく。
……目の端が光っているようにも見えたが、きっと酒が目にしみたのだろう。
ウォーカー「改めてありがとう。この店は、どんな時にでも自然に接してくれる……
下手な慰めをかけられるより、どんなに心が癒やされることか」
……みんな、自分のことにかまけてるだけかも。
ウォーカー「そうかもしれないな。ふふふ」
頃合いだろう。君は、残った酒を飲み干すと、テーブルを離れた。
ジェイド「どうも、お疲れさまでした」
ルネッサ「75点ってとこかしら」
……やっぱり見てたか。ずるい奴らだ。
君は、ウォーカーの飲み代の分も、かっこよく払おうとした。
が、もう払い込まれた後だった。
ちぇ。カッコつけ損ねた。
君が部屋に戻ろうとすると……
ルネッサ「待ってよ。アンタの分は誰も払ってないわよん」
……けちな奴らだ。