「よーう、旦那ぁ、こっちこっちぃ」
……別に、この男と一緒に飲むつもりはなかったんだが……まぁ、いいか。
「いやいや、命が助かった後の一杯ってのも、また格別なもんスねえ……」
ああ、そういえば、何やら森で襲われたとか言ってたっけ。頭に矢をはやして……(−−;)
とりあえず、その辺の話を聞いてみる。
「あ〜、イヤ全く、参ったっスよ。ホント。僕、これでも近くの街じゃちったぁ有名な薬草師でしてね、あ、スターリングのフィドル薬店って、ご存じないスか? ……あ、知らない……そう、ま、ヒマがあったら寄ってみて下さいよ、奥さん大満足なお薬を盛りだくさん用意してお待ちしてますから」
……なんだ、その「奥さん大満足」ってのは……
だん!
「コイツの言うこと、いちいち真に受けてちゃ、身が持たないわよ」
ルネッサが、エールの追加を運びついでに、口を挟んでくる。
「史上最悪のインチキ男なんだから。コイツの薬、まともに効いたことがありゃしない」
「あ、そりゃ心外っス。僕の薬は100発100中がモットー。なにしろ、王室も秘密で御用達ってくらいなんスから」
「……前買った薬、全然効かないわよ」
ルネッサは、フィドルの耳を乱暴につかんで言った。
「いつつっ、ちぎれちゃう、離して! ……全く、乱暴なんだから……で、なに、前の薬がきかない? ん〜、なんだったっけ……、あ、あれかぁ! ム……」
げしっ!
何か言いかけるのフィドルの後頭部を、ルネッサはトレーで思いっきりはたいた。どすどすと足音をたてながら、カウンターの方へと戻っていく。
……こりゃ、しばらく酒は注文できないな……
「あれ? で、何の話してたんだっけ?」
フィドルは頭をさすりながら言った。確かに、豪快に話がずれていったからなあ……
もう一度、森で襲われたといういきさつを聞いてみる。
「えっと……あれは、そう……う〜、何だったっけ?<(^^;)」
……今のショックでだか何だか知らないが、きれいさっぱり忘れてしまったらしい。
……ダメだ、コイツ……(−−;)