そう、晶に贈るプレゼントは指輪だ。
晶の誕生石に合わせて、オパールの指輪を用意した。
正直高かった…。
これを買うためにバイトを増やしたりしたりして、ここしばらく辛いものがあった。
でも、これなら晶も喜んでくれるだろう。
晶の笑顔を期待しつつ、僕はゆっくりと電車に揺られていた。

Present


「まずい…、完全に遅刻だ…」

ここ最近のバイトの疲れが溜まっていたのだろうか…。
電車の中で眠りについた僕はきっちり寝過ごしてしまった。
今日の待ち合わせはオランダ坂。
約束の時間は既に一時間以上過ぎている。
晶は待っていてくれるだろうか…。


長崎の街を全力疾走して、ようやく約束の場所に着くことはできた。
目を凝らして晶の姿を探す。
晶は……、いた!
晶は約束の場所にちゃんと立っていてくれた。
面と向かって合う前に、その表情をうかがおうとした。
しかし、うつむいているのと長い髪が顔を隠しているので、知ることはできなかった。
やっぱり怒っているんだろうな…。
しかしここまで来て引き返すわけにもいかず、覚悟を決めて晶の前に出た。


「ゴメン、晶。待たせちゃって…」

まず、謝罪の言葉から述べるべきだろうと思いそう口にした。
だが晶はわずかな反応も見せなかった。
重い沈黙が流れる…。
ひょっとして人違いか!?とも思ったその時、始めて晶は口を開いた。

「待ったわよ…」

その言葉に僕はあれっと思った。
僕が予想していたよりも怒りの感情が含まれてないのだ。
代わりに含まれているのは…、哀しみ?

「ホントにゴメン。えっと…1時間20分も待たせちゃって…」

腕時計を見てもう一度謝る。

「違う…」

「えっ!?」

いったい何が違うというのか…。
腕時計はさっきまでちゃんと動いていたはずだし…。
そんな事を考えていると、晶はぽつりぽつりと話し出した。

「2ヶ月…。
2ヶ月も待ったんだから…。
電話もかけてこない。こっちからかけてもいつも留守電…。
やっと今日会えると思ったら、まだ私を待たせるし…」

「晶…」

その言葉から哀しみと不安が伝わってくる。
そして、自分の不甲斐なさに心が締め付けられる。

「晶、本当にごめん…」
僕はただ謝ることしかできなかった…。


しばらく経って、晶は顔を上げた。
その表情は晴れやかとは言えないが、言いたいことを言ったというさっぱりとした印象があった。

「ゴメン…。ちょっと私らしくなかったかな…」

わずかながらも笑顔も見せてくれる。
そんな晶への愛しさが溢れてきて、今日の目的を思い出した。
かばんの中に手をやり、目的の物を探す。
スエード調のブルーの箱。
右手で底を持って差し出し、左手でその蓋を開ける。
中から現れるのはオパールの指輪。
晶は驚いた視線を指輪と僕の顔の間で往復させる。
どんな言葉がその口から出てくるのか…、わくわくした気持ちで僕は待った。

「ばか…」

しかし、晶の口から出てきたのはそんな言葉だった。
どうして?という疑問で頭がいっぱいになる。
そうやって指輪を差し出した恰好のまま固まっている僕の手に、晶の手が添えられた。

「ホントに、ばかね…。
手をこんなに傷めて…。
私なんかのために…」

晶の手は暖かかった。
バイトでできた手の傷、そこからぬくもりと共に今の晶の気持ちが伝わってくるようだった。
会うことができなかった不安…。
周囲には強がっていた自分…。
そして、僕への想い…。
晶と心が一つになったという感じがする。
だから、晶も感じているのだろう、僕の晶への想いを…。
二人の間に穏やかな空気が流れた。
その空気に促されるように、僕は晶の手を取り指にそっと指輪をはめた。
今日心がつながった証として…。

「メリークリスマス…、晶…」

選択肢に戻る
目次に戻る