そう、晶に贈るプレゼントはヘアバンドだ。
彼女自身、色々なヘアバンドを持ってるみたいだし…。
この選択は間違ってないはずだ。
なるべくセンスがいいものを選んだつもりだけど、晶、気に入ってくれるかなぁ…。

Present


今日の待ち合わせは築町。
晶は…、先に着いて待っててくれたみたいだ。

「ごめん晶、待たせちゃった?」

「もちろん待ってたわよ。今日はどこに行こうかなって、考えたりしながらね」

このやり取りもいつものものになり始めていた。
晶が僕と会う事を楽しみにしてくれている…、そのことだけで、心が満たされてくる。
っと、今はそんな感慨にふけっている場合ではない。
僕は一つ深呼吸をしてから、バックの中に用意してあったプレゼントを差し出した。

「メリークリスマス、晶。えっと、これプレゼントなんだけど…」

晶はぱぁっと顔を輝かせて、クリスマス用の包装をされたプレゼントを受け取った。

「ありがとう。…ねぇ、中を見ていい?」

僕は頷いて、包みを開けることを促した。
プレゼントを贈った者としては、どんな反応をしてくれるのかはすぐに見てみたいものである。

「うん。まあまあね」

晶の反応は、表面上そっけないものだった。
しかしこの数ヶ月の間に、晶のほんのわずかな表情の変化で本心をつかめるようになってきている。
その診断によれば、プレゼントは合格点をもらったようだ。
そうなれば、次は実際に付けている所を見てみたい。
そう考えるのは自然なことであった。
しかし。

「晶、よかったら付けてみ―」

「今日はこれからショッピングに行きましょう」

その言葉に僕の願いは遮られてしまった。
このプレゼントは付けてもらうために贈ったのに…。
合格点をもらったというのは、単なる僕の見込み違いか?
そんな不安が押し寄せてきたが、今の僕にはショッピングに向かった晶を追うことしかできなかった。


晶のお目当てのブティックに着いてもも僕の心は晴れないままだった。
再会してすぐのころ、このようにショッピングをしたことはあったが、その時はただ荷物持ちをさせられただけであった。
今ではそんなこともなく、晶も意見を求めたりしてくれるが、正直満足な答えを返すことはできなかった。
そんな状態が続いたまま日は落ちて、別れの時間がやって来た…。


「もうこんな時間?なんだかあっという間だったわね」

「う、うん…」

今までにも、もう一度ヘアバンドを付けてくれるよう頼もうとはした。
しかし、その度ごとに機会を逃してこんな時間になってしまった。
これが最後のチャンスと思い、僕は気合いを入れて晶に話し掛けた。

「あ、晶!」

「えっ?なあに?」

そんな気合いも晶はさらりと流してしまう。
しかし、ここまで来ては後には引けない。
僕は言葉を続けた。

「僕が贈ったヘアバンドだけど…、付けてみてくれないか」

ついに最後まで口にすることができた…。
ほんのわずかな満足心が心に沸いてくる。
だが…。

「ダメ」

晶の口から出てきたのは、今の僕には死刑執行を宣言されたも同様な台詞であった。
晶の満足するようなプレゼント一つ贈れない…。
僕はなんてダメダメ人間なんだ…。
そんな絶望にくれる僕の表情を見て晶はクスリと笑って言った。

「バカね…。何もそんな理由で言ったわけじゃないわよ」

へ?と、僕は気の抜けたような顔になってしまう。

「今ここで付けられないのは、今日来てきた服と合わないから。
だから今日はずっとこれと合う服を探していたのよ」

そうだったのか…。
そんなところまで気が回せなかった自分がちょっと情けなくなってしまう。
しかし、そんな気持ちを吹き飛ばすような一言を晶は続ける。

「やっぱりあなたには、一番奇麗な私を見て欲しいから…」

少し頬を染めて放ったその一言に、僕はどうしていいのかわからず硬直してしまった。
ただ、頬といわず顔全体が熱くなっていくのがわかった。

「も、もう、そんな顔しないでよ、こっちまで恥ずかしくなってきちゃうじゃない!」

それからしばらくは二人、何も言えずにその場で向かい合って立ち続けてしまった…。



そんな沈黙を破ったのは晶の方であった。
「と、とにかく、これを身に付けているところが見たいのなら、また長崎に来なさいよ。
待っててあげるから…」
半ば照れ隠しなのだろう、いつもより大きめの声で言って、晶は足早に去っていった。
僕の方はというと、未だにそこに立ち尽くしたままであったが、次の長崎行きの予定を考えていた…。

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