ジャンプ力とペストの媒介で知られる蚤は昆虫綱、微翅目に分類されます。
その身体は米粒を押し潰したような平らべったい形をしていて、海老のような体節があり、色は茶色です。
ほとんどの蚤は大きさが1〜3ミリほどですが、中には8ミリを越えるような大きな種類も存在します。
雄よりも、雌のほうが大型です。
よく知られているように、その種類の多くは良く発達した後肢で飛び跳ねて獲物に近づき、
獲物の身体を這い回って良い場所を見つけるとそこで吸血を行ないます。
そして後に、猛烈な痒さの赤い痕が残ります・・・

 蚤は昆虫の仲間で、成長は卵・幼虫・蛹・成虫という手順を踏みます。
蚤は卵を小さな塊のまま、宿主の身体、部屋の床、巣穴の中など適当に産みます。
卵の大きさはだいたい0.5ミリほどで白から灰色をしています。
卵は産み付けられてから数日から数週間後に孵化して小さな剛毛の生えた青白い蛆虫になります。
この蛆虫は部屋の床や巣穴の中を動き回り、宿主が落としたふけや垢、
そして蚤の成虫の糞を食べて成長します。
中には蝿やブユなどの昆虫の死骸を食べるものもいます。
餌がなければ共食いする事もあるそうです。
幼虫の期間は大体2〜4週間ほどです。
その後幼虫は口から絹のような糸を吐き出して繭を作ってその中で蛹になります。
蛹の期間は1〜2週間ほどですが、成虫はすぐに繭を破って現われたりはせずに、
そのまま眠りについてしまいます。
そして、獲物の足音が聞こえるとすぐに目覚めて繭を破って現われます。
こうして、人が全くいない部屋に入ったら沢山の蚤が出迎えた、という事がおこるわけです。
蚤は獲物が現われなければ、繭の中で1年くらいは獲物の訪れを眠ったまま待っているそうです。
寿命は環境が良ければ1年半ほど、研究室の記録では5年間というものがあります。

 蚤が獲物を探すのは空気や地面の振動と臭い、そして、体温によります。
振動によって獲物の訪れを感知し、臭いと体温によって獲物に取り付いて、
口吻を獲物に差し込んで、血液の凝固を防ぐ働きのある唾液を注入して、
時間をかけてゆっくりと吸血を行ないます。
時には吸血にかかる時間は数時間にも及ぶそうです。
蚤は気温と湿度が高く、獲物が側にいるのなら毎日吸血しようとします。
しかし、気温が低い時は食欲がなくなり、吸血は数週間おきになります。
蚤は断食に強く、半年くらい吸血を行なわなくても全く平気です。

 蚤の仲間にはぴょんぴょん飛び跳ねて獲物を襲うものだけではなく、
獲物の身体に住み着いて動かない種類もいます。
この仲間はスナノミと呼ばれていて、人間や豚などの足の皮膚や爪の間などに潜り混んで
そこで勝手に生活を始めてしまいます。
蚤に潜り込まれた場所は炎症や潰瘍となり、腐って切断しなければならなくなる事も珍しくありません。
この害は非常に大きくスナノミの多い地域では、人間の足の指が10本ある事は珍しいと言われるほどです。

 蚤の中には宿主を特定して、それ以外の種類では繁殖出来ない種類もいます。
ヨーロッパアナウサギノミは妊娠しているアナウサギの雌から吸血しなければ、卵の発育が起こりません。
更にアナウサギの赤ん坊から吸血しないと交尾行動を取りません。
新たな獲物が現われなければ産卵は行なわないのです。
逆に言えば、新たな獲物が現われた瞬間に子供を産むわけです。
こうすれば、子孫が餌に不自由しないですみます。

 また、ヤマアラシは蚤の吸血に耐性を持っているどころか、蚤がいないと生存が出来ないそうです。
1匹のヤマアラシにどれだけの蚤がいるかという実験によると、800〜1000匹もいるそうです。
普通はヤマアラシくらいの大きさの生物には50匹程度しか蚤はいません。
ヤマアラシは異常な数の蚤を身体に飼っているわけです。
ヤマアラシは蚤が注入する毒素に対する抗毒素を持っているため多数の蚤の吸血されても平気だそうです。
しかし、この抗毒素が仇になって、蚤に全く吸血されないと死んでしまうそうです。

 最後に人間と蚤との関わりについて少し書いてみます。
人間は蚤の吸血によって散々悩まされてきました。
蚤の吸血による痒みも酷いものですが、これはまだいいほうです。
本当に恐ろしいのは蚤の吸血によって媒介される病気でしょう。
最も有名なのはペストで、酷い時には3年間でヨーロッパの人口の4分の1以上を殺した事があります。
ペストは本来は野性の鼠の仲間の病気で、その鼠に住んでいる蚤によって媒介されます。
しかし、これらの鼠が大発生をしたりして人間の住む地域に入り込む時があります。
するとその蚤が人間の住む地域に生息しているドブネズミやクマネズミなどを襲ってペストに感染させ、
ドブネズミやクマネズミなどから吸血している蚤もペストに感染する事になります。
これらのペストに感染した蚤が更に別な鼠を襲ってペストを感染させ、
鼠の間でペストが大流行する事になります。
このペストによって人間の住む地域に生息する鼠はほとんど死に絶えてしまいます。
こうなると蚤は獲物がなくなってしまうため、別な獲物から吸血する事になります
そうして人間が狙われる訳です・・・
こうして人間の間でペストが大流行する事になります。
この時ペストにやられるのは鼠と人間だけではありません。
蚤もペストにやられてしまいます。
蚤はペスト菌が口吻に詰まって吸血出来なくなって餓死してしまうのです。
飢えた蚤は人間の皮膚に口吻を差し込み、何とか吸血しようとするのですが、
ペスト菌が詰まっているためどうしても出来ません。
そして、苦し紛れにペスト菌の塊を吐き出そうとします。
これが人間の体内に吐き出されるためにペストが人間に移るわけです。

 過去には蚤を利用した人達もいました。
蚤のサーカスがそれです。
蚤に作り物の小さな軍艦や馬車などを引かせたり、
蚤にいろいろな格好をさせてダンスを踊らせたり、という出し物だったようです。
これらの出し物は衛生状態が良くなって、蚤が少なくなってくると次第に廃れていったようです。
また蚤を利用した工芸品もあったそうです。
蚤に小さな衣装を着せるとか、小さな道具を持たせたりするのです。


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