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最新(その11「某屋敷前、3」)


 はじめに 1999/5/19 <=

私は、ファミコンエミュレータでどらくえ3をToHeartキャラな名前つけてやってます。
で、まあ、その日記なわけですが。

キャラの設定をToHeart寄りにし、主人公視点で書いてますので、
実際のゲームと違う点もあるかと思います。

あと、ゲームの進行で時間をかけたところと、日記でページを費やすところは大きく異なっています。

ま、よーするに、日記とは名ばかりのモノです。

それでも、お楽しみいただけたら幸いです。

 その1「目覚め」 1999/5/11 <=

「…ちゃん」
…………
「ひろゆきちゃぁん!!」
…………
「浩之ちゃん!」
声が、聞こえる。
「浩之ちゃん! 朝だよ!」
心地良いまどろみをいつもの声が打ち破る。
「あかり…」
「おはよう、浩之ちゃん」
「朝っぱらからでけぇ声で名前を呼ぶんじゃねぇ」
「で、でも、今日はとっても大切な日だから…」
「ん…?」
「だって、浩之ちゃんが初めてお城に行く日でしょ」
城…
そーいえばそーだっけか…? どうも記憶がまとまらない。オレ、寝ぼけてるのかな…?

あかりに連れられるままに階段を降り、家を出て、道をたどる。
なにか違和感を感じながらも、オレは現状を認識する。
ここは、オレが生まれ育ったアリアハンの街で、こいつは幼なじみのあかり。駆け出しの僧侶だ。
で、オレは浩之、行方不明のオルテガの息子で、今日16になった。

これで…あってるよな?

などと考えるうちに、城門についていた。
「それじゃ、浩之ちゃん、お城へ行ったら王様にちゃんとご挨拶するんだよ」
「へいへい」
「もう…」
心配そうに見つめるあかりを残し、オレは城へと入っていく。
なんだか、やっかいなことになりそうな予感がするぜ……

つづく

 その2「酒場へ、1」 1999/5/14 <=

魔王バラモスを倒す。
これがオレに与えられた仕事だ。
国王だか何だか知らないが、自分は1歩も動かないで好き勝手言いやがって。
勇者ひろゆきよ!
なんて調子のいいこと言ってたが……オレはだまされねーぞ。
だが、あーゆー大人に逆らうと痛い目を見ることもまた事実なので、とりあえずは黙って聞いておいた。オレもなかなか大人だな。

「浩之ちゃん、どうだった? ちゃんと王様に会えた?」
あかりが心配そうにきいてくる。こいつは城門前でずっとオレを待ってたらしい。なかなかの忠犬ぶりなので、頭をなでてやった。
「あ……」
ちょっと照れながらも嬉しそうにするところが、また犬ちっくだ。
このまま「お手」やら「おかわり」やらと遊んでいてもよかったのだが、さすがにちょっとそんな気分ではなかった。

「魔王退治を頼まれちまったよ」
「まおうたいじ…?」
「魔王バラモスとやらがどっかにいるんだと。そいつを倒してこいとのお達しだ」
「えぇ〜!?」

「さてと… 酒場にいかねーとな」
「酒場? こんなお昼から…? 浩之ちゃんお酒飲むの?」
「『まちのさかばでなかまをみつけ、これでそうびをととのえるがよかろう』(<声色)っていう王様のありがたーいお言葉があったからな」
「そうなんだ……」
「まあ、酒場にはそーゆー連中がいるもんだ」
オレは、『英雄なんてのは酒場に行けばいくらでもいる。逆に歯医者の治療台には1人もいない』という古い言葉を思い出しながらそう言った。

つづく

 その3「酒場へ、2」 1999/5/19 <=

「ルイーダの酒場」
この街で最もメジャーな酒場で、実にいろいろな人物が集まってくる場所だ。
オレはそこで仲間を探さなければならない。

魔王バラモスとやらを倒すため、オレと一緒に戦ってくれる仲間を…だ。
そのバラモスだが、どこにいるんだかもわからない、しかも、魔王ってくらいだからたぶんかなり強い。

16、7のガキ(オレのことだが…)に連れられて、そんな魔王退治に出かけようなんてヤツが、はたしているのだろうか…

酒場への道を歩きながら、オレは先行きの暗さにため息をついていた。

「あら〜 ヒロじゃん、どうしたの? 暗い顔して?」
声が聞こえたような気がしたが、オレは無視して歩き続けた。
「コラ! 聞こえてるんでしょ? 返事くらいしなさいよ!」
何も聞こえない。
「ねえ! ヒロってば!」
幻聴だ。
「…あんたがそういう態度に出るならこっちにも考えがあるわよ!」
知るものか。

ガン!

ひろゆきは3ポイントのダメージをうけた!

「い、いてえ…」
「ほ〜らごらんなさい、このあたしを無視するからバチがあたったんだわ」
「おい、こら、てめぇ、いきなり何しやがる!」
「何のことかしら?」
「その手に持ってるのは何だ!」
「こんぼう」
「…………」
コイツは志保、腐れ縁の悪友だ。
「で、どうしたの? 世界の終わりみたいな顔しちゃって」
「おまえみたいにフラフラ遊んでるヤツにゃわからねぇ悩みだよ」
「まあ、あたしはそれが仕事みたいなものですからね」
まったく、どこの誰だ!? 『遊び人』なんていうふざけた職業作ったのは!!
「とにかく、おまえと話してる暇はない。オレは忙しいんだ」
「ちょ、ちょっと、ヒロ! 待ちなさいよ」
こんなヤツとつきあってたら時間の無駄だ。オレはダッシュで酒場をめざした。
日ごろから鍛えてるオレと、遊んでばかりの志保とでは基礎体力が違う。はじめはすぐ後ろから聞こえていた志保の声も、どんどんと遠くなっていった。

そろそろ酒場につくが… 志保はついてきてないよな?
振り返って見てみたが、とりあえず視界内にはいないようだ。ひと安心だぜ、と、スピードをゆるめたとき…

どんっ

オレは誰かにぶつかってしまった。

つづく

 その4「酒場へ、3」 1999/5/21 <=

どんっ!

完全な前方不注意だ。走りながら後ろを振り向くなんてことはしない方がいい。
ぶつかった相手はどうやらオレよりも軽かったようで、勢いがついていたこともあって、オレが一方的につきとばしたような状態だった。

「わ、悪い! 大丈夫か?」
とにもかくにも謝りながら、突き飛ばしてしまった相手を見る。
そこで座り込んでいたのは、黒髪の…そう、すごくなめらかで綺麗な黒髪の女性だった。
オレよりもちょっと年上かな?
「大丈夫か? どこも怪我とかしてないか?」
その女性は、突き飛ばされて座り込んだ姿勢のまま、ぼーっとしている。
「すまない、オレが悪い、謝る、ごめん」
「…………」
無反応…
オレの方をじーっと見たまま、やっぱりぴくりとも動かない。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
5秒ばかり見つめあった後、オレはようやく気づいた。
…こうやって見つめあっててもしょうがない。
とりあえず、手を差し出す。
「ほら、つかまって」
「…………」
なんとなく予想できていたが、やはり無反応だった。
姿勢も変えず、オレの手をぼーっと見ているばかり。

「ほらっ」
多少強引に手をつかんで、彼女を立たせてやった。
ぶつかったときにも感じたことだが、とても軽い。倒れている人間をひっぱり起こすのは、案外大変なものだが、今回はちっとも苦ではなかった。

「…………」
手を離したら倒れちまうんじゃないか、などとちょっと心配したが、さすがにそんなことはなかった。でも、表情は相変わらずだし、動こうともしない。
もしかして、怒ってるのだろうか…?
「なあ、もしかして怒ってる?」
「…………」
どうやら、予想外の質問だったようで、返答までには一瞬の間があった。

ふるふる…

無言のまま、首を横に振る。
どうやら怒っているわけではないらしい。とすると、もともとこういうヒトなのかな?

「とにかくごめんな… あ、服汚れてるぜ」
「…………」
「ほら、お尻んとこ…」
「…………」
「…………」
…くそ… 気になりだしたらすごく気になる…
ええい!

ぱんぱんぽふぽふ

「…………」
そのとき、初めて彼女が声を出した。『あっ…』と、小さく一言。そして、頬が赤く染まる。

…オレ、もしかして、いけないことやっちまったか…?
「…………」
赤くなったまま、じーっとこっちを見ている…
う…なんか…気まずい……
なんとか、状況を変えないと…

「ほ、ほら、帽子も落ちちまってたぜ」
ぶつかったとき落ちた帽子を拾い、ぽんぽんとホコリを落として手渡す。
「…………」
黙って帽子を受け取り、やっぱり黙ったままこっちを見ている。

「あれ…?」
ゆったりとした動きで黒髪の上に乗っかった帽子を見て、オレは初めて気づいた。
このひとは、魔法使いなんだ。

よくよく見てみると、服装から何から、きっちり『魔法使い』してる。
とんがった帽子、ローブにマント、魔法の杖らしきものまで持ってる。

よく観察した後で、顔を見ると、また赤くなっていた。
理由はおそらく、オレの視線だ…
たっぷり10秒くらいかけて、全身見てたからな…

もしかして、変な奴だと思われてるかも……
…な、何かちゃんと言わなきゃ!
で、とっさに口から出た言葉が、
「オレは、あやしい奴じゃないんだ」

だーーーーーーっ! メチャクチャあやしいじゃねーか!!
自分から『あやしくない』なんて言う奴ほどあやしい奴はいないぞ…

「…………」
そうですか、って? おいおい、信じるかそれを…
いや、オレはあやしくなんかないんだからいいんだけどさ…
「…………」
「目を見ればわかるって?」

こくこく

どうやら、オレの目を見て判断してくれたらしい。なんだかよくわからないがさすがだぜ。
オレは少し落ち着いて、あらためて自己紹介をした。

「オレは浩之、一応勇者ってことになってる。さっきはごめんな。えーと…」
「…………」
「せりかです? ああ、せりかさんっていうのか。よろしくな、芹香センパイ」

挨拶してからはたと気づいた。
ん? なんだ、この『センパイ』ってのは……?
確かに、オレよりもレベルが高そうだから、先輩には違いないだろうけど。なんでいきなりそんな言葉が出てくるんだ…?

「…………」
よろしくおねがいします。と答える芹香さん。『先輩』と呼ばれたことに何の違和感ももってはいないようだ。
ま…いいか…

このヒトにつきあってたら、ずっとこのペースで話が進むのだろうな…

ちょっと名残惜しい気もするが、オレにはやらなきゃいけないことがある。
オレはルイーダの酒場に入るため、センパイに別れを告げた

「じゃあな」
「…………」
「またお会いしましょう。って? あ、ああ、またな」

センパイの言う『また』の意味なんて、このときはまったく考えていなかった。
普通の挨拶程度に思っていたのだが……


ま、とにかく、オレはルイーダの酒場に入っていった。

つづく


 その5「酒場にて、1」 1999/6/10 <=

「ハァイ、ヒロユキ、こんなとこでどーしたの?」
ルイーダの酒場に入ったオレを出迎えたのは、陽気で明るい声だった。
「あん? レミィじゃねーか、何してんだ? こんなとこで?」
こいつはレミィ、アメ…? あれ? どこだっけか……? えーと、どこだっけか外国の出身で、
今はアリアハンに住んでいる。

「ワタシ、ここでアルバイトしてるの」
そうだったのか、なかなか感心なことだ。
「で、ヒロユキはどーしてここに?」
レミィに話してどうなるもんでもないかもしれないが、ここでバイトしてるんだったら、もしかしたら仲間になってくれそうな誰かを知っているかもしれない。そう思って、オレはレミィに現状を話した。

「OH!! 大魔王!」
「そう、魔王バラモスってやつを倒さなきゃなんねーんだ」
「ヒロユキ… だいじょーぶ?」
「まあ、なんとかなるさ」
「…がんばってネ」

レミィの手前なんとかなるとは言ったものの、本当になんとかなるのか……?
どこにいるかもわからない魔王を倒すなんて、前途多難だとか困難だとかいうレベルじゃないぞ…

しかし、まあ、考えててもどうにもならない、やるだけのことはやってみよう。

「ヒロユキ、これ食べて元気だそーヨ」
レミィの明るさがオレの心も明るくしてくれる気がする。
「レミィ、サンキューな」
「どーいたしまして」

レミィの出してくれた食事を食べ、当然ビールも飲む。この苦みが心地いいぜ…

「レミィ! もう1杯頼む!」
「OK!」

オレがビールを飲んでも誰も文句を言わない。いい世界だな。

…? 何考えてんだオレ? いい世界…? 悪い世界もあるのか…?
……きっと酒のせいでちょっと混乱してるだけだろう。たぶん…

おっと、飲んでばかりもいられない。仲間を探しに来たんだった。

レミィを仲間にするって選択肢もなくはない… だが、女の子だしな…
それ以上に、オレの命が危ない…
何といってもレミィはたまに暴走する。そうなったレミィは、動くモノはすべて獲物にしか見えなくなっちまうらしい。オレも1度見たことがある。あれは危険だ。
誰かが狩りへの欲求のせいだと言っていたっけな… まあともかく、ただでさえ強力な敵と戦わなきゃいけないんだ、味方に狩られるなんてまっぴらだ。

さてと… 他に誰かいないかな…? と。

つづく

 その6「酒場にて、2」 1999/6/27 <=

 他に誰か… と…
 どうせなら強い奴がいいよなぁ…

 とりあえず、強そうな奴何人かに声をかけてみたが、軽くあしらわれるだけだった。そして、それを見た周囲の酔っ払いが無責任にはやしたてる。

「おまえが勇者さまだって!? 嘘だろ?」

「冒険ごっことはわけが違うんだぜ」

「坊やはお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな」

 くそっ!!
 まあ、そう簡単に仲間が見つかるなんて思っていなかったが、ここまで馬鹿にされるとも思わなかったぜ。

「ふざけるなっ!」
 思わず殴りかかるオレ。
 確かにガキだが、伊達に勇者なんて名乗ってるわけじゃない、そこらの酔っ払いに遅れをとったりはしない。
 べきっ!
 オレの拳が酔っ払いの顎にクリーンヒットする。
「こ、この野郎!!」
 酔っ払いは怒って反撃してくる。
 この程度のパンチ、簡単にかわせるぜ! と、身をかわした瞬間のことだった。

 ぱしぃぃぃん!
 すぱぁぁぁん!

 快音は、オレの後頭部、続いて酔っ払いの顔面で炸裂した。
 な、何がおこったんだ!?

「うるさい! あんたら、ええかげんにしとき!」

 しん…と静まり返った酒場に声が響く。
 見ると、眼鏡をかけた三つ編みの女の子がハリセンを持って立っていた。
「静かに飲んどるモンの迷惑や、やるなら外でやり」

 オレは、はっきり言って驚いていた。
 いくら酔っ払いに気をとられていたとはいえ、オレは彼女のハリセンに反応すらできなかったのだ。まさに電光石火の早業だ。

「なんや? じろじろ見て?」
 不機嫌そうな顔でこっちを見る彼女。
「あ、いや… なんでも」
「ほな、さっさと向こう行って」
「あ…ああ…」

 そう言われても、この実力はかなりのものだ。とりあえず仲間に誘ってみなけりゃな。

「な、なあ…」
「なんや?」
 う… 視線が冷たい…
「じつは…」
「そっちが行かんなら、こっちが行くわ」
「あ…」

 振り向きもせずにすたすたと去っていってしまった…
 無言のままテーブルに金貨を置くと、そのまま店から出ていく。

A、とりあえず追っかける。
B、あきらめて店の奥へ行く。

 などと、考えているうちに、彼女の姿は完全に見えなくなった。もう追いかけても無駄だろうな…

 これで、めぼしい相手にはみんな断られちまったってことか…
 ため息をつくオレの視界に、階段が見えた。

「なあ? あの階段の上って何があるんだ?」
 カウンターの向こうの女性に尋ねる。
「冒険者の登録所よ」
 へぇ… じゃあ、もしかしたら誰か見つかるかもしれないな…

 2階に行ってみるとしよう。

つづく

 その7「酒場にて、3」 1999/11/26 <=

 階段を上って2階へ向かう。
 しかし、2階はただの登録所だという話だ。あまり期待はできないな…

「あの…」
 突然、声をかけられた。
 見ると、階段の踊り場に女の子が一人立っている。
「あの… この階段… 危ないですよ」
「は?」
「いえ、だから…」
 見知らぬ女の子だった。オレよりも少し年下だろうか? やはり酒場には似つかわしくないように思えた。

「階段が危ない?」
「ええ…」
 控えめな口調だが、何か確信めいたものがあるのか、その娘はきっぱりと危険を告げた。
「ああ、わかった。気をつけるよ」

 まあ、こんな階段で何がどう危険なのかはわからなかったが、わざわざ言うからには何かあるのだろう。気をつけておいても損はない。一応注意深く階段を上る。
 しっかりとした造りの階段であり、とても危険があるようには思えないが…

 あと1段で上り切ってしまう。どうやらあの娘の取り越し苦労だったみたいだな。
「どうやら大丈夫みたいだったな」
 と、振り向いて、女の子に笑いかける。
 緊張した顔つきだった女の子も、ほっとした表情になる。
 そして、2階へと上がろうと足を上げた瞬間。軸足がずれた。良くわからないが、右足を踏みだそうとした瞬間に、左足を横に引かれたような感覚だ。

 誰にでもわかることだが、片足の人間ってのは不安定なものだ。オレは大きくバランスを崩し、次の瞬間には空中にいた。

 そういえば、昔もこんなことがあったような気がする。

 あれは、いつだったか……

 しかし、今は思索にふけっている場合ではなかった。

 ごろごろごろ、どがっ。

 派手な音を立てながら、オレは踊り場まで戻ってきていた。

「わたし… また…」
 踊り場にいた女の子は、なぜか悲しげにそういうと、身を翻して走り去っていた。

A、追いかけて理由を聞く
B、呆然と見送る

 当然追いかけるぜ!
 と言いたいところだったが、派手に階段を転げ落ちた直後の身体は、うまく動いてくれず。痛む腰をさすりながら、なんとか起き上がったとき、すでに女の子はいなくなっていた。

「…いったい…何だったんだ…」
 誰にともなくつぶやいたオレだったが、その答えは得られなかった。

 つづく

 その8「街角で」 2000/6/4 <=

「ふう…」

 オレはため息と共に酒場を後にした。
 あの後、2階でも1階でも、仲間になってくれそうなヤツにはみんな声をかけたが、結局誰も仲間になんてなってくれなかった。
「よく考えてみりゃ当たり前だよな…」
 16やそこらのガキに、魔王討伐の仲間になってくれなんて言われて、ついていく方がおかしい。オレだって他人から誘われたとしたら絶対に断るに違いない。

 さて…どうするかな…

A、街をぶらつく
B、もう帰る

 帰ったところで何があるわけじゃない、まだ夜までには時間があるし、街をぶらついてみるか…

 夕方の街は、活気にあふれていた。魔王がどうこう言っても、そのことを知っている奴なんてほとんどいないのだ。
 あきれるほど平和そうな街の風景がそこに広がっていた。

「この平和な世界を守らなきゃいけない!」
 とでも考えることができればオレも立派な勇者様なんだろうが、残念ながらそんな気持ちにはなれなかった。
 そんなことを本気で考えてる奴がいたら、そいつはどこかいかれてるんじゃないかと思う。

「あうー」

 もしかしたら、という思いはあったのだが、やはりこんな街中で仲間を探すのは無理があったかもしれない。

「あうあうあうあう」

 仮に誰かいたとしても、こんなところでのんびりと説明する気もしない。

「あーうー」

 ……誰だ? さっきから…?
 見てみると、女の子が泣きながらうろうろしていた。迷子…か?
 確かにオレよりは随分と歳下には見えるが、迷子になるほど幼いようには見えない。

「おい? どうした?」
「あ、あう」
「なにしてんの? さっきから」
「うう… ここはどこでしょう…」
「……」

 本当に迷子だった。


つづく

 その9「某屋敷前」 2000/7/10 <=

 結局、迷子の女の子を目的地まで送り届けることになった。

「うう、すみません。本当ならわたしが人間のみなさんのお役に立たなければいけないのに…」
「ま、気にするなよ、まだ生まれたばかりなんだから」
「はい…」

 この子の名前はマルチといって、何と人間ではないらしい。
 言われてみれば、人間そっくりの機械人形を作りつづけている連中の噂を聞いたことがある。おそらく、マルチはそこで作られたんだろう。
 それにしてもすごいもんだ、まるで人間にしか見えない。

「しっかし、来栖川っていや、この街一番の大金持ちのお屋敷だぜ? そんなとこに住んでるのか?」
「いえ、わたしが住んでるのは研究所なんですが、お屋敷のすぐそばなんです」
「へぇ…」

 大金持ちの屋敷と機械人形研究所。なんだか変わった組み合わせのように思ったが、よく考えてみると機械人形を作るなんて金のかかりそうな研究、金持ちのスポンサーでもついてなきゃとてもやってられないだろう。

「ほら、マルチ、ついたぜ」
「あ、ありがとうございますぅ、このご恩は一生忘れません」
「そんな大げさな…」
「いいえ、いつか必ずご恩返しをさせていただきます」

 たかが道案内程度でここまで一生懸命になってるマルチを見ていると、なんというか、ちょっと暖かな気持ちになれた。

「わかったよ、そのときにはよろしく頼むな」

なで

「あ……」

なでなでなで

「……ん……」

なでなでなでなでなで

「……んん……」

 嬉しそうというか、気持ちよさそうというか…

なでりなでりなでり

「…うふぅ……」

 いかん、なんか止まらんぞ… どうしちまったんだ。オレ?



つづく

 その10「某屋敷前、2」 2000/9/26 <=

「――マルチさん」
「あ、セリオさん!」

 と、振り向いてみれば、見知らぬ女性。

「うう、やっと帰ってこれましたぁ」
「――おかえりなさい。マルチさん」

…で、誰なんだ? このひと? マルチの知り合いみたいだけど…

「あ、えーとですね、こちらはセリオさんです」
「――はじめまして」
「あ、どーも」

「で、こちらが浩之さんです。なんと勇者さまなんですよー」
「――そうですか」
「浩之さんが、ここまで連れてきてくれたんですー」
「――それはよかったですね。マルチさん」
「はいー」

 なんか、変な会話だなぁ…
 かみあってないってゆーか、何てゆーか…

 もしかして…

「なあ、マルチ」
「なんですか?」
「セリオも、その…」
「え? セリオさんですか?」
「人間じゃ…なくって…?」
「はい、セリオさんとわたしは姉妹みたいなものなんですよー」
「そ、そうか…」

 感じた違和感はこれだったのか?
 ひとの姿をしながらもひとではないもの。だから、違和感を感じたのか?

「どうしたんですか? 浩之さん」
「ん、あ、いや、何でもないよ」
「そーですか」

 でも、マルチと話してるときにはそんな違和感は感じなかった。今だって感じていない。
 セリオって、なんか、本当に機械なんだな…

「あのですね、セリオさんはすごいんですよー」

 そんなオレの心を知ってか知らずか、マルチはセリオについて話している。
 セリオと自分がライバルであること、セリオが自分よりも優れていること、自分が劣っているということ。

「わたしなんかじゃ、全然かなわないです…」

「――マルチさん」
「はい?」
「――私とあなたは開発コンセプトが違います」
「そ、そうですね」
「――私には、迷子になることすらできません」
「はぁ?」
「――私は、置き忘れられた荷物でしかありえないのです」
「……?」
「――つまり…」
「???」
「――つまり、私はあなたになりたいのです」
「へ?」

 セリオは、どこか悲しそうに見えた。全く表情は変わらないし、口調も事務的で感情は感じられない。それでも、なんとなく、つらそうに見えた。

ぽんっ

 オレは、2人の頭に手を置いて言った。

「マルチはマルチ、セリオはセリオだろ」

「自分にないものを相手が持ってるからって、自分の価値を見失ってちゃだめだって」

 …なんか、偉そうなこと言ってるな。オレ。

「自分なりにがんばればいいんだよ」


「――浩之さん… ありがとうございます」
「ありがとうございますー」

 見た目も何もかも違うし、立場的にはライバルだって言うけれど、それでも、やっぱしこの2人は姉妹なんだ。オレはあらためてそう思った。


つづく

 その11「某屋敷前、3」 2001/2/21 <=

「なかなかいいこと言うじゃない」

 ん?
 あれ? 芹香先輩?



 じゃない。

「誰だ? おまえ?」
「…あのねぇ、初めて会った人間にいきなり言う台詞がそれ?」
「あ、すまん」
「別にいいけどね…」

 確かにちょっと失礼だったかもしれない。

「ひとのこと聞くんだったら、自分が先に名乗りなさいよ」
「ああ、オレは藤田浩之、一応勇者やってる」
「あ、なるほどね」
「ん? 何がなるほどなんだ?」
「あなたの失礼な言葉の理由」
「あん?」

 なにがなんだかわからん…

「そんな不思議そうな顔しないでよ」

 楽しそうに言う。
 ぱっと見では芹香先輩に似てるけど、全然別人だ。間違いない。

「あのね、姉さんが話してたのよ。あなたのこと」
「姉さん?」
「そ、芹香姉さん。知ってるんでしょ?」
「姉妹なのか!?」
「そーよ」
「道理で似てると思ったぜ…」
「どーせ顔は似てるけど中身は全然違うなぁ、とでも思ってたんでしょ?」
「ははは…」

 なかなかするどい。

「言われ慣れてるからね」
「そうかもな」

 ま、確かに。誰でも言うだろうな。

「で、結局あんた誰なんだ?」
「って、あなたねぇ」
「名前だよ、名前、オレはちゃんと名乗ったぜ」
「あれ? まだ名乗ってなかったっけ?」
「芹香先輩の妹ってことだけは聞いた」
「あら」
「他人に名乗らせたんだから、自分も名乗るのが礼儀だと思うぜ」
「あたしは綾香、来栖川綾香よ」
「ん?」
「なに?」
「来栖川って、あの来栖川か!?」
「あの、ってのがどれだか知らないけど、この家のことよ」

 そう言って、目の前の巨大な屋敷を指差す。
 確かにでかい、いや、でかすぎる。
 さすがにこの国のもう1人の王と呼ばれてるだけのことはあるぜ。

「おどろいた?」
「ん? 別に」

 確かに驚いた、が、それも一瞬のことだ。これから魔王退治に出かけなきゃならないんだ。屋敷程度でどうこうなる程度で、勇者がつとまりはしない。

「なんだ、案外適性あったんじゃねーか……オレ」
「?」
「いや、独り言だ。気にしないでくれ」

 こんなことで、勇者の適性なんてわかりゃしないだろうが… まあ、オレが魔王を倒せなきゃ、どんな屋敷だって意味がないわけだしな。

「だったら少しくらい協力してくれてもバチは当たらないだろうに…」

「え? 何か言った?」
「いや、なんにも」
「そう?」

 グチ言ってても何もならない。やれるだけやってみるしかないだろう。
 もちろん、協力してくれるってなら喜んで受けるかもしれないけどな…


つづく
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