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 特殊能力

 きしむベッドの上。美坂栞と相沢祐一はそのとき確かに本能のままに動く生物だった。

がたん
「ただいまー」

 玄関の音、帰宅を告げる声。

「お、お姉ちゃん!?」

 美坂家の実力者の1人であり、栞の姉、美坂香里。妹のことをとても愛している。ちょっと過保護気味で少しシスコン風味。
 ノックもせずに妹の部屋に入ることはないが、ノックと同時にドアを開ける可能性は十分ある。

「だ、だめですっ、祐一さん! お、お姉ちゃんがっ!!」

 栞は懸命に理性をふりしぼるが、祐一は動きを止めようとしない。

 栞は考える。

祐一がいることを知っていたら、ドアを開ける前に警戒するのではないか?
庭で雪だるまを作っていたせいで、祐一の靴は玄関にはない。
するどい姉といえども、この家に祐一がいると気づいていないだろう。

姉がすぐに自分の部屋に来るとは限らないのではないか?
しかし、おみやげを持ってきてくれている場合は、すぐにやってくるだろう。
アイスを買ってきてくれるよう頼んだのは、他でもない栞自身だ。

ドアに鍵がかかっているかも?
自分の部屋のドアに鍵などそもそもついていない。
いくら突飛な行動を好む恋人といえど勝手に鍵を設置したりはしない。

 解決策は思いつかないまま、絶望だけが深まっていく。理性をふりしぼるのも限界に近かった。

 祐一の動きはますますその激しさを強め、栞の頭の中は限りなく真っ白に近づいていく。
 そして、

トントン
「栞、アイス買ってきたわよ」
ガチャ

 あっさりとドアは開いた。

「や……」

 栞は、香里の視線を感じていた。とても冷たくて、痛い。

「一人でそんなことしてると、頭悪くなりそうな気がしない?」

「え……?」

「それにあんた一応彼氏持ちなんだから、寂しかったら会いに行きなさいよ」

「???」

「アイス、冷凍庫に入れておくから」

「は……はい」

ばたん

 ドアが閉まる。

 栞は混乱していた。
 姉には、祐一が見えていなかったのだろうか……?

「ど、どういうことなんでしょう……?」

「俺の特殊能力だ」

「え?」

「これでも18禁ゲームの主人公だからな。そういうシーンで、第三者の視界から消えることなんざ朝飯前だ」

「……」

「さて、続きでもやるか……」

「あ、だ、だめですー」

 きしむベッドの上。美坂栞と相沢祐一は本能のままに動く生物だった。

 隣の部屋で、美坂香里が大きなため息をついた。


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