ルネッサは狼だの熊だのと、さんざん脅かしてくれた。しかーし。
よく考えてみれば、この店に来る時、そんなものに会ったことないぞ。
天気もいいし、部屋の中でゴロゴロしているのにも飽きた。少し散歩でもするか。
君は外に出てみることにした。
てくてくと、目的もなくただ森を散策する……
……いや、まったく。本当に良い日和だ。森を縫うように続いている道。木漏れ日がちらちらとモザイクのように映り込んで、実に美しい。ヒバリの鳴き声が……
ひゅっ!
……突然聞こえなくなったと思った瞬間、風きり音がした。
見ると、足下に矢が突き刺さっている。危うくブーツに穴が開くところだった……ですまされる問題ではない。
「この森から出ていけぇ!」
やや舌っ足らずな、子供っぽい声。
そちらを恐る恐る向いてみる。
……子供だ。一気に緊張感がそげた。赤みがかった金髪、青い目、緑の狩猟服。背丈と同じくらいの弓。この近くの猟師のいたずら息子か……
おゃ? なにか心に引っかかるものがあったので、子供の顔立ちをよく観察してみる。つり気味の目、長めの鼻筋、とがり気味の耳……
……もしかして、森精の子供か? 森精自体が珍しいのに、子供なんて初めて見た。やっぱりいるんだなあ……などと変な感慨に浸りながら、その子供をつい、しげしげと眺めてしまう。
「で、出ていけったらぁ!」
子供は新しい矢をつがえた。見ると、肩がかすかに震えている……怯えてるのだ。
どうやら本気で射つ気はなさそうだが、あれではどこに飛んでいくか分かりはしない。それがかえって恐ろしい。
別に目的があって歩いていた訳でなし。君は肩をすくめて、そう自分に言い聞かせると、もとの道を引き返し始めた。
背中に視線が突き刺さっているのが分かる。……なんか腹が立つ。引き返してちょっといぢめてやるか? まったく……