星空のディス……


 暑い……眠れない……
ベッドの中をゴロゴロと寝返りをする君。
 リネンのシーツが、じっとりと君の汗を含んでいる。

 さら……と、心地よい風が君の肌を通り過ぎていく。
少し夜風に当たって、身体をさますのもいいかも知れない。
 そう考えた君は、軽く身支度を整えて、階段を下りていった。
一階。夜遅くまでいつも騒がしい酒場も、今はさすがに静まり返っている……そういえば、君が一番最後まで粘っていたのだった。
 ふと思いついて、カウンターから酒瓶を一つ、拝借する。まあ、あとで申告しておけばいいだろう。

 音を立てないように、扉を開ける。かんぬきは始めからはずれていた。不用心な。……まあ、こんなボロ宿、しかも泊まっているのは屈強の冒険者揃いとあっては、泥棒の方が敬遠するのだろう。

 雲一つない、降るような星空。風が、森の木々をそよかに揺らしながら届いてくる。全身にへばりついた汗を拭っていってくれるようだ。
 と、星が降った。流れ星。と、もう一つ。
「流れてゆく……」

夜空を見つめるゼファ。

 振り返ると、ゼファがいた。
相変わらず、心臓に悪い娘だ。
 驚きをつとめて押し隠し、君はゼファに、夜遅くに一人で出歩いている理由を聞いてみる。
君も、人の事は言えないのだが。
 「あの星、と、あの星」
ゼファは、青白く輝く二つの星を指さした。
 「今日は、あの二つの星が出会う日」
……??? 意味がよくとれない。
 詳しく聞いてみると、星になった男と女が、一年に一回、この日だけだけ出会える、という伝説を、どこか遠くの方から来たという冒険者が話していったらしい。
 別に、突然星が動いてくっつくというわけでもないだろうに、何で今日なんだろう。
などと、情緒のかけらもないことを、つい考えていると。
 ゼファが、じっと君の瞳をのぞき込むようにしている。
……間が持たない。あたりを二、三見回し、何か気の利いた話題がないか探してみる。
 すぅ。あ、また流れ星。
ぽん。思いついて、流れ星と願い事の方へ話を振った。
「……」
 ゼファは、無言で夜空の一点を指さす。
すう。……すぅ。…………すぅ。
 まるで、ゼファが指さしたその一点を中心にするように、流れ星が次々と尾を引いていく。
願い事の大盤振る舞いだ。
「たくさんの命……流れていく……」
 いきなり縁起でもないことを言い出すゼファ。そのままじっと、宙の一点を見据えている。

 どうも、君の存在も全く忘れ去られたようなので、そっとその場を離れることにした。

……あ、もう汗引いてる……


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