妖精もお祈りするの……?


 礼拝堂に、タウラがいた。
チェインメールにサーコート。背中に剣を背負って。すっかり旅支度と言った出で立ちだ。
 タウラの方も、君に気付いたようだ。
タウラ「……」
 何か言いかけようとしたが、言葉が出てこない。
ソードフィッシュ「ぐーぐー……(−。−)」
 タウラの代弁者、ソードフィッシュは、タウラの肩でぐーすか寝入っていた。よだれがでている。
タウラ「…………」
 タウラは、目だけを動かし、ソードフィッシュを見つめる。別段表情は変えない。

スピットファイア「こら、ソード、起きなさい! タウラ様が困ってらっしゃるでしょ!!」
……困っていたらしい。
ソードフィッシュ「ふにゅうぅ……」
 スピットファイアの大声に、ようやくソードフィッシュは目を覚ました。

武装タウラ。


タウラ「まあ、良いではないか、スピット」
……ソードフィッシュの口から、タウラのセリフが紡ぎ出される。
スピットファイア「でも、タウラ様……」

 相変わらず腹話術で遊んでいるように見える……
タウラ「おお、長居してすまんのう。我らはもう出立する故、ゆるりと祈るがいいぞ」

……そういえば、妖精って神々に祈りを捧げるのか……?
 素朴な疑問が君の頭をよぎる。

タウラ「ふむ。我らも、敬意を捧げる存在を持っておるぞ。
 ただ、人間が神々とやらに祈りを捧げるのと、ちょっと違うがのう」
スピットファイア「タ、タウラ様……いいんですか?」
タウラ「何かいかん事でもあるのか? 人間でも、精霊使いは同じ信仰を持っておるというのに」


 この世を統べているのは、この四つの「司」と呼ばれる存在じゃ。

春の司
夏の司
秋の司
冬の司


 一目瞭然じゃの。四つの「司」が同時に統べているのではなく、季節ごとに交代で治めておるのじゃ。
昔は人間も信じておったがの。いつしか自らの神々に祈るようになっていったな。
 なぜかって? 「司」達は気ままじゃからの。祈ったからとて、必ず聞き入れるわけではないのだよ。
今でも、道の端に「ほこら」があることがあるじゃろう? それが名残じゃ。


 世界は大きく四つの「界」に別れておってのう。それぞれの「界」は、「君」と呼ばれる存在に統べられておる。

地の君
水の君
風の君
火の君


 「界」に住んでおる住人を、人間は「精霊」と呼んでおるな。錬金術師は「エレメント」とか呼ぶこともあるが。
……実際にはニュアンスがちっと違うのじゃが、人間の言葉に適切な言葉がないので致し方あるまい。


 複数の「界」が混じり合って、様々な自然現象が生み出される。そのような「界」の重なり合うところ、それが「域」じゃ。森、湖、海、砂漠、沼……深い自然に紛れ込んだとき、突然自分が見知らぬ場所に来たような気がすることが無いかの? そのときは、知らず「域」に紛れてしまったやも知れぬな。

森主
空主
湖主
……


 「域」を統治するのが「主」と呼ばれる存在じゃ。人間は「妖精王」とも呼ぶがの。
「域」に住むものどもを、人間は「妖精」と呼ぶが……ただ、未だに人間が「妖精」と「精」と「精霊」をどう区別しておるのか、わらわにはさっぱりわからん。


 「域」が複雑に絡み合って、「境」が出来る。人間のいう「世界」も、このうちの一つと言うことになるな。
人間は、別の「境」からきた存在も「妖精」として扱うからのう……このへんでややこしくなるのじゃ。
 そなたらも、よくこんがらがらんのう。
例えば、人間はわらわの事を「森精」、ドリの事を「山精」と呼ぶが、我らがどこから来たものだと考えておるのか、その辺のこともよく分からん。

 そういえば、この「境」は、神とか言う存在が統べているよう

スピットファイア「タウラ様!」
……おっと、こういう言い方をすると、神官とやらがまたうるさいからの。聞き流したもれ。


ドリ「タウラ、そろそろ行くぞ」
タウラ「おう、いま参ろうぞ。
……ではな、そなたがこの宿を忘れぬ限り、また出会うこともあろう」

 タウラは、背の巨大な剣を担ぎ直すと、君に一礼して礼拝堂から去っていった。


ホームへ。