ゆらり…、ゆらり…、振り子が揺れる。
この水時計の前で待ち合わせをするのが最近気に入っている。
時間の流れがゆったりしたものに感じられるから…。
ゆっくりとあなたへ思いをはせることができるから…。


ゆれる想い



私は今日、この水時計の前で待ち合わせをしている。
待っている相手は春に再会を果たした中学の頃のクラスメート。
…でも、その頃から彼はただのクラスメート以上の存在だった。
その時はその気持ちに決着をつけることはできなかった。
でも今は、繰り返し会ってるうちに、気持ちが形になってきているのが分かる。
…そう、私は…彼のことが……。


「あれ?美由紀じゃない?」

そうやって、いい気分で彼のことを考えていると、後ろから声をかけられた。
振り向かなくても、この声の主は分かる…。
小さい頃から聞き飽きるほど聞いた声だから。

「あ〜、お姉さまに向かって何その態度〜」

いいところを邪魔されて、無視を決め込んだ私に、お姉ちゃんは近づいてくる。

「愛するお姉さまに、おはようの挨拶をしないなんて…。そんな子に育てた覚えはないぞ〜」

お姉ちゃんはそう言って私の両方のほっぺたをつまんで伸ばす。
見たところかなり気分がハイになっているようだ。
お酒の匂いもほのかにする。
また、朝まで遊んでたんだ…。
少しあきれる気持ちが起こり小言の一つでも言おうと思ったが、
この状態のときに何を言っても効果がないということは経験から知っている。
しょうがなく私は素直に挨拶をすることにした。

「お、おふぁよう」

ほっぺたをつままれているので多少間の抜けた挨拶になってしまった…。
それでも、挨拶をしたことに気をよくしたのかお姉ちゃんはやっと指を離してくれた。


「ところで、こんな朝早くから何してんの〜?」

お姉ちゃんは『美由紀のことなら何でもお見通しよん♪』といった顔をして聞いてくる。
予想はついているはずだが、それを私の口から聞きたいのだ。

「別に何もしてないもん」

私は顔を背けてそう言い放つのがやっとだった。

「むっふっふ。それじゃあこの由嘉里お姉さまが推理してあげましょう〜」

『別にいらないわよ!』と心の中でツッコミを入れる。
しかし、そんな心の内を無視してお姉ちゃんは言葉を続ける。

「ズバリ!待ち合わせね!」

はいはい、正解です…。
まぁ、この水時計の前は金沢でも有名な待ち合わせスポットの一つだから、推理というほどのものではない。
ここは、話を合わせてあげた方が面倒がないと思い、私はその答えに頷いた。
その反応に気をよくしたのかお姉ちゃんはさらに言葉を続ける。

「待っているのは…、ズバリ!男ね!」

えぇっ!!なんで分かるの!?
今日のことは誰にも話してないのに。

「な、なんで知ってるの?」

私はおもわず聞き返した。
するとお姉ちゃんは『ニヤリ』という形容にふさわしい顔をして言った。

「あ〜ら。ホントにそうだったのん。カマかけてみただけなのに〜♪」

…………。
…………。
…………。
…………はめられた…………。

「ちょっと、そんな恐い顔しないでよ〜。
それに、カンだけで言ったわけじゃないんだから」

えっ…、それってどうゆうこと…。

「そんな、気合いの入った恰好してれば誰にだって分かるわよ」

お姉ちゃんは、少しあきれた声でそう言った。
…そ、そんなに気合い入ってるかな…。
確かに一張羅を着ているけど…。
でもそれは、わざわざ遠いところから来ているのに変な恰好なんてできないから…。
そ、そう、別に変な意味合いはないんだから…。
私は頬が熱くなるのを感じつつ、うつむいてしまった。
そんな私の様子をお姉ちゃんはニヤニヤしながら眺めている。

「く〜、奥手な美由紀にもついに彼ができたか!
姉としてちょっと心配してたけど、これで一安心ね」

まったく、こんな時だけお姉さんぶるんだから…。
しばらく時間を置いて、私が落ち着いた頃を見計らってお姉ちゃんが話し掛けてきた。

「ねえ…。その子ってひょっとして春頃から付き合ってない?」

べ、別に付き合っているわけじゃ…って、なんでそんなことまで知ってるの?
またカマをかけられていると思い、私は沈黙で返した。

「クスッ。別にカマをかけているわけじゃないのよ」

そう言ったお姉ちゃんの顔は、私が今までに数えるほどしか見たことのない真面目な顔だった。
その雰囲気に押されたのか、おもわず私は頷いてしまった。

「やっぱりね…」

「でも、なんで知ってるの。今まで話したことなかったのに…」

不思議に思い、疑問が口に出る。
その疑問に、お姉ちゃんはすごく優しい顔をして答えた。

「だって、美由紀その頃からかわいくなったもん」

…な、何言って…。
私はおもわず顔を赤らめる。
さらに、お姉ちゃんの言葉は続く。

「ほら、そのちょっと前から美由紀って、ちょうどこんな風に…」

そう言って、お姉ちゃんは背中の水時計の振り子を指差す。
それは私たち二人にはかまわず、規則正しく時を刻んでいた。

「…こんな風に、心が揺れていたじゃない?勉強のこととか…、家のこととかで」

お姉ちゃんの言う通り、その頃の私の精神状態はひどいものだった。
でもそれを救ってくれたのは彼のアドバイスだった。
中学の頃と変わらない彼の優しさが私を救ってくれた。
そして今だって私の心を軽くしてくれる。

「大切にしなくちゃダメだよ、その想い…」

お姉ちゃんは、心の内を読んだかのようなタイミングで話し掛けてくる。

「恋する乙女って顔だったぞ、今の美由紀の顔♪」

そう言っていつものお姉ちゃんに戻ってしまった。
ちょっと意地悪でおせっかいでふらふらしてて、でも、私のことを気にかけてくれるお姉ちゃんに。


「さてと、そろそろ帰ろうかな」

お姉ちゃんは、一つ大きな伸びをして寄りかかっていた水時計から離れた。
水時計を見上げると結構な時間話し込んでいたことがわかる。

「帰ったらお熱いデートの話、聞かせてよね♪」

最後にそうからかってお姉ちゃんは帰ってしまった。

「まったく、もう…」

あきれながら、私はその背中を見送った。


お姉ちゃんの姿が完全に見えなくなってから、水時計のガラスに目を移す。
そこにはずっと付き合ってきた自分の顔が映っている。
ガラスに映る顔に私は微笑みかける。
すると、ガラスの中の私も微笑んでいた。
…かわいくなった、か…。
今日は少し自分に自信が持てそうな…、そんな気持ちが湧いてきました。

「早く来てね♪」

私はまだ移動途中であろう彼に呼びかけました…。

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