「あなたとは友達じゃ、いやだよ…」

あの時私の口から出た言葉…。
あれは間違いなく私の本心なのだろう。
出会いを重ねていくたびにつのる想い。
そして…。

Catch me


今日の待ち合わせはこの白川公園。
今までに何度もここで彼―西園寺 勇人―と待ち合わせをしてきた。
しかし、そのたびごとに私の心は変わっていった。
「友達」として付き合い始めたはずなのに、だんだんと惹かれ始めている。
少しでもあなたのことを知りたいと思い始めるようになってきている。
そう意識したときからあなたの表情から色々な事がわかるようになってきた。

―あれは、神社での出来事。

「浮気者なんだ〜」

私の言った言葉にあなたは慌てた反応を示した。
少なくとも、後ろめたいことを隠しているという雰囲気は見て取れた。



―あれは、名古屋港での出来事。

「こんな風に二人だけで会ったりする女の子って他にもいるの?」
あなたは、何人かいると答えた。
その後、恋人とかじゃない、と言い訳をした。
確かに恋人ではないと言うところには嘘は感じられなかった。
けれど、ただの友達というところには、何か引っかかるものを感じた。



私以外に会っている女の子がいることは確実だろう。
少し前の私なら「友達が多い」ということで、大して気にも留めなかったかもしれない。
でも、今の私は―。


「……りか!るりか!」

考えにふけっていた私を現実に引き戻したのは、勇人の声だった。
いつの間に来たのだろうか、それすらも私は気付かなかった。
いつもの笑顔を私だけに向けて話しかけていた。
そのことを意識すると、私の頬は熱くなってくる。
元気だった?と聞いてくるあなたの問いかけにも答えられなくなってくる。

「なんか、調子くるっちゃう」

今の私はそう言って、その場をごまかすのが精一杯だった。



「そういえば、この公園にも何度も来たね。
 小学校の頃と、再会してから両方…」

二人で公園の中をゆっくりと散歩していると、自然にそんな言葉が出てくる。

「あなたと再会しからいろんなことがあったよね…」

隣を歩くあなたにそう話しかける。

「ほんとにこの一年間いろんなことがあったよ…」

あなたはそう返してくる。
そのとき、私はふと横顔をのぞきこんだ。
そこには、私の見たくない表情が映っていた。
どこか遠くを見ている眼…。
私以外の誰かのことを想っている…、そんな眼だった。
こんな表情なんて見たくない!
そう思った私は、何とかその表情をやめさせようと言葉を捜した。

「ね、ねぇ、鬼ごっこしようよ。
 最初はあなたの鬼ね!」

おどけた感じで無理やり鬼ごっこを始めた私。
鬼ごっこに夢中になってくれれば、あんな表情はできないだろう。
それに、逃げる立場の私は、あの表情を忘れるぐらいの時間をかせぐことができる。
そういう私の考えを知らずにあなたは無邪気に鬼ごっこを楽しんでいる。
しばらくの間走り回った後、私はついに追いつかれてしまった。

「ほい、タッチ。次はるりかの鬼だからな!」

あなたは体を翻して、今までとは逆に私から逃げていく。
私はすぐにその後を追おうとした。
その時、あなたの後姿が不意にかすんで見えた。
そして、あの時の思い出がよみがえってくる。
真実を打ち明けようとした時、いつもいるべき場所から消えたあなた。
自分に対する苛立ち、あなたに対する想いが混ざり合って、涙という形で現れたあの時。
―また、あなたはいなくなってしまうの?
昔の自分と今の自分が重なり、あの時と同じように止めどもなく涙が溢れてきた。
私は、あなた追うこともできずに立ち尽くしていた…。


「ど、どうしたの?るりか?」

私の異変に気付いてあなたがそばに近付いてきた。
その二つの瞳は確かに私だけを見つめていた。
―あぁ、私はこの瞳で見つめて欲しいんだ。
そういう気持ちが溢れてくる。
その溢れ出た気持ちは、声となって現れてくる。

「……私だけを…、見て」

「…えっ!?」

「ごめん…もう我慢できないんだ…、あなたが私以外の女の子のことを見るのが…。
 こんな気持ち…、私の心には縁のないことだと思っていた…。
 でも、あなたと会うたびにどうしても押さえきれなくなってきて…。
 だから…、だから……」

すっ…。

私は温かなものに包まれた。
気がつくと私はあなたの腕の中にいた。

「ごめん…、るりかの気持ちに気付かなくて…。
 でも…、もう安心して。
 今ここで誓うよ、ずっとるりかだけを見つづけていくことを…」

その言葉は私の心に染み入ってくる、ずっと待っていた言葉だったから…。










「じゃあ、鬼ごっこの続きをしようよ」

落ち着きを取り戻した私は元気よく言った。

「るりかの鬼からだよな?」

そう言ったあなたに、私はいたずらっぽく笑って言葉を返す。

「ずっとあなたが鬼だからね!」

「な、何で?」

「だ・か・ら、私をずっと追いかけて、つかまえてなきゃダメなんだよ

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